<インタビュー>プロカメラマン兼YouTuberが作例解説。ポートレートの撮り方、機材とは?
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SWAMPERでは、すでに19本の動画が公開されているわたなべりょうさんのYouTubeチャンネル。女性ならではのきめ細かな視点からの撮影解説は非常にわかりやすく、初心者にも写真愛好家にも参考になる内容が詰まっています。そんなわたなべさんにインタビューを行い、ポートレート撮影におけるテクニックや機材について聞いてみました。
<プロフィール>
わたなべ りょう
武蔵野美術大学卒業後、独学にてポートレートを中心としたストックフォト作品や家族写真を中心に撮影を開始、ニコンカレッジにて写真講座の講師を担当。カメラ系YouTuberとしても活躍し、これまでに投稿した数は244本(2023年3月13日現在)。YouTube:わたなべりょう、ストックフォト販売中:ピクスタ、SWANPER内のわたなべりょうさんの動画一覧。
西日を生かしながら、アゴを少し隠すことで表情のかわいらしさを表現
–それでは写真を見ながら、解説をお願いできればと思います。1枚目ですが、自然光の雰囲気が非常にいいです。こちらは何時頃に撮影したものでしょうか
これは15時頃の西日で撮りました。天気がよくて、日差しが強い日でしたね。海辺だったので風も吹いていましたし、髪にも動きが出ています。写真のポイントでいえば、西日と風という感じでしょうか。
–どういった流れで撮影をしていますか
光がきれいに当たるようにいろいろな角度を向いてもらって、左サイドの髪が夕日で光る1枚になっています。髪の質感もいい感じで表現できているのかなと。
–自然ないい表情ですね
これはテクニックかもしれないですが、アゴがあまり見えないようにしています。少し隠した方が、かわいく映せるときがあるんです。
–リラックスした雰囲気を出すために、どういうことをされているのでしょうか
このモデルさんとは初めて一緒に仕事をしましたが、気軽に雑談をして仲良くなりましたね。
–会話をしながら、シャッターを押していますか
ずっと喋っているわけではなく、シャッターを押すときは集中して撮影しています。ただ、その辺も結構バランスだと思います。黙々と撮り続けても、モデルさんが緊張してきちゃいますので。私の場合は結構、感覚的なのですが、ポーズや場所が決まったら集中して撮影し、ある程度まとまって撮れれば、移動といったことを繰り返しています。
–とにかく多くシャッターを押して、「後でトリミングすればいい」という風には考えないのですね
そうですね。構図に関しては、事前に100%決めたいと思ってからシャッターを押しています。結果的に後から直すこともありますけど、なるべく構図は決めておきます。
日中撮影でストロボは使わない。現場でやれることはいくらでもある
–撮影後の写真の編集や調整ですが、どれくらい時間をかけていますか
プリセットを保存していますので、あまり時間はかけていません。「この写真だったら、この設定」といったことがわかるため、微調整程度。そもそも撮影枚数が多いことが大半なので、今のところ1枚に何時間もかけるということはないです。
–日中のポートレートでストロボを使うことはありますか
過去に使うこともあったのですが、現在は使っていません。撮影よりもストロボに気を使わないといけなくなることが多くなり、私のスタイルには合わなくて……。光よりもポーズを変えることや風景を生かす方が大事だと思っていて、そちらの方が自分がやりたいことが表現できると感じています。
–天気が悪く、光量が足りないときはどうやって対応していますか
そのときはあまり屋外では撮りませんね。
–2枚目ですが、こちらも同じ場所でしょうか。引きの絵ですね
千葉県の海です。彼女がポツンと一人で佇んでいる雰囲気を出したかったんです。
–ポートレートに限らずですが、構図として引きと寄り、両方あるといいでしょうか
それは撮影者の視点次第。自分でこの構図が好きだと自信を持って撮影できればいいと思います。そこはもっと自分を肯定してほしいですし、そのためにいろいろな写真見ることも大切だと思います。撮影した写真のクオリティに納得できなければ、勉強すればいいわけですから。
その場にあるもので前ボケを演出。モデルとは綿密なコミュニケーションが大切
–ロケーションは海ではなさそうですが、1枚目と同じモデルさんですね。いわゆる逆光ですが、手前のグラデーションのようなものは何でしょうか
雑草を使って前ボケを演出しています。カメラの前に植物が生えてたらよかったのですが、そんなに都合よくは生えていなかったので、レンズの前に雑草を持ってきて撮影しました。
–まさにテクニックですね。フォトショップなどで調整していると思いました
思えば無意識にやってました。光を見た瞬間に「何かここにあったらいいな」と思い、すぐに判断していましたね。
–このときの撮影の流れを教えてもらえますか
モデルさんに「髪を触ってほしい」といった指示をしています。あとはレフ板を使い、柔らかい光の雰囲気が合うと思って撮影していました。
–レフ板を持ってもらっていたということは、2人で撮影されていたということでしょうか
そうですね。夫と撮影していました。通常、2人で撮影することが多く、レフ版持ってもらったり、いろいろとサポートしてもらっています。衣装や荷物運搬もあるので、私は撮影に集中できる環境でやらせてもらっています。
–アマチュアのカメラマンが一人で撮影する場合、気をつけることはありますか
可能な限り、モデルさんに気を使ってあげることが大切だと思います。モデルさんも人間ですので、嫌な気分になれば表情に出てしまいますし、結果的にいい写真は撮れなくなってしまいます。いつまでに終わるか、どのように撮影するのかなどがわからないと不安ですし、コミュニケーションが大事。他の現場で「全然休憩がない」といった不満をモデルさんからも聞きますので、そうしたケアは大切だと思います。
あえて色数を絞ることで際立たせる効果。アクセやメイクもワンポイントに
–こちらのロケーションは屋内でしょうか
こちらは屋外です。少し曇りの日で、コンクリートの前で撮影したものですね。
–こちらはストロボを使っていますか
使っていないです。自然光です。
–きれいに顔に光が入ってる印象です
基本的に自然光で、なるべくシンプルに撮影したいんです。ライティングよりもモデルの動きをどうするのかといった可能性を探る方が好きなので、なるべく機材は増やしたくありません。機材を増やすよりも、できることはいくらでもあると思っています。ポーズのアイデアはいくらでも出てきますし、「こういう衣装ならどうなるかな」といったイメージでいつも思考しています。
–ほかにも何か実践的な方法があれば、教えてもらってもよろしいでしょうか
例えば、メイクやアクセサリー。少し変えるだけで印象が変わってきますし、あとは色数も気になります。この写真はコンクリートの壁が無機質な感じで、全体的に色数の少なかったので、ワンポイントとして口紅の赤色が映えています。
–確かに赤色だけが際立っています
色数を絞るというのもテクニックかもしれません。あと彼女は少しボーイッシュな雰囲気だったので、わざと髪の毛もボサボサにしてもらいました。
–髪に動きをつけるといったのは、一般の方も使えるテクニックですよね
そうですね。結構ファッション誌などでも流行っている見せ方だと思います。今っぽい感じなのかもしれません。
背景を絞り込むことで不必要な要素を排除し、冬の雰囲気を演出
–こちらのテーマはどういうものでしょうか
冬の寒い季節をテーマにしたかったというのがあって、背景に落ち葉を入れている感じですね。
–セーターと背景で季節感が出ています
衣装もポイントになりますよね。
–背景がボケていますが、絞りはどれくらいでしょうか
F1.4だと思います。これもテクニックになるのかもしれないですが、実はこの時、まだ背景には緑の葉をつけた植物が結構繁っていたんです。ただ、冬という設定である以上、それらを写すわけにはいかないので、モデルさんにしゃがんでもらって高い位置から撮影し、背景のスペースを絞り込みました。
–モデルさんを決めるときに撮影シーンが決まるのか、撮影シーンを決めてからモデルさんをお願いするのか、どちらでしょうか
両方ありますが、このときは最初から寒い雰囲気の写真を撮りたいと決めていました。全体でいえば、自分の中のイメージが先で、その後にモデルさんにお願いするケースが多いかもしれません。
–モデルさんにお願いするときは、事前に衣装などの細かいこともオーダーしておきますか
そうですね。モデルさんも準備が必要なので、擦り合わせはしておきます。さっきも言いましたが、そういうことがテクニック以前に大切で、いい写真が撮れるのかは事前のケアの積み重ねだと思っています。
顔にかかる影、前ボケ、モデルのポーズという複合要素で構図を決める
–こちらは顔にかかる影がポイントでしょうか
前ボケも使っています。撮影した時間は15時くらいだったと思います。西日の強い光があり、影もできて、前ボケも表現した形。モデルさんには立ち位置を指示し、影を計算しつつ、どういう表情が一番いいかを探りながら撮影した感じです。
–ポーズについては
手を入れるとより女性らしさと構図に動きも出てきます。顔の一部を隠すのはよく使う手法です。髪を耳にかけてみると、より女性らしさが出ますね。
メインはトラブルが少ない頑丈なNikon Z9。撮影に集中できるマイベスト機
–では、機材の方に移りたいと思います。メイン機は何でしょうか
基本的にNikonのZ9だけで撮影しています。サブ機がZ6で、プライベート用がZ50ですね。
–レンズについては
定番だと85mmとかになるのでしょうけど、主力のレンズは特になく、あらゆるものを使っています。気分によって使い分けている感じです。「これで撮ってほしい」と言われれば、それでやれますし、これじゃないといけないというようなものはありません。おそらく一般の“カメラ好き”の方に比べたら、あまり機材に興味がないんですよね。そこにお金をかけるなら、モデルさんに仕事をお願いしたいですから。
–機材に興味がないというのは、カメラマンとしては珍しいのではないでしょうか
興味が湧かないのです。機材やレンズの微細な違いに興味はなく、それよりも現場で工夫することに興味があります。可能な限り、機材で迷うといった選択肢をなくして、現場での動きを重要視したい。それが私にとっての“遊び”なんです。
–そもそもNikonを選んだきっかけは
大学生のとき、あまりカメラの知識がなくて、家電量販店に聞きにいったんです。CanonとNikonの違いなどを聞きたかったのですが、担当された方がNikonの販売員さんで、自ずとNikonになってしまいました(笑)。最初に購入したカメラはD40だったと思います。それ以来、Nikonを使い続けています。ただ、後から考えると、やはりNikonのカメラは頑丈。撮影中のトラブルはないですし、結果的に写真に集中できるのが、Nikonだと思っています。
–ほかのメーカーを使われたことはないのでしょうか
あまりにも流行っているので、一度SONYを使ってみましたけど、あまり好みではなかったんですよね。そのため、すぐにNikonに戻りました。
–撮影の際には、独自の設定などを使っているのでしょうか
特に難しい設定にはしていないですし、だからこそ写真に集中できます。機材が進歩し、誰もが簡単に撮れる時代になったからこそ、「なぜこのような写真を撮ったのか」を考えないと意味がないと思うのです。小手先の技術よりも自分のビジョンが大切になりますし、自分の発想や生き方の根底が写真で表現できているのかを、今後も追求していきたいですね。