プロカメラマンが教える!ビギナー向け、おすすめのCanonミラーレス一眼
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ミラーレス一眼カメラの3大人気メーカーといえば、Canon、Nikon、SONY。なかでも長年ファンから愛され、プロカメラマンからも支持され続けてきたメーカーがCanonであり、その確固たる存在はもはや不動のポジションといっても過言ではない。
近年はミラーレスカメラにも注力し、フラッグシップモデルのEOS R3は卓越した機能を有する完成形であり、プロからも高い評価を得ている。
では一体、一般ユーザーおよびカメラビギナーが、Canonのミラーレスを購入するならどのような機種がいいのだろうか? プロがおすすめする“1台目に持つべき”カメラを聞いた。
依田 裕章(Hiroaki Yoda)
プロのバイクレーサーなどを経て、2003年からフォトグラファーとしてキャリアを開始。広告、雑誌、企業案件ほか2008年からはパラリンピック、2013年からVリーグなど、スポーツからビジネスまで幅広い分野で活動中。夏季・冬季ともにパラリンピックに同行し、陸上競技場から雪山まで、あらゆる条件下で撮影を行ってきた。ロケ撮影からスタジオワークまでこなし、豊富な経験と深い知識を持つ。( fwyxf366@gmail.com / instagram @ hiro_yoda )
Canon一筋20年。SONYも興味はあるが、すべての買い替えは現実的ではない
今回、教えてくれる専門家はプロカメラマンの依田裕章さん。パラリンピックやVリーグなどのスポーツ分野から雑誌や広告、企業案件まで幅広い分野で活躍し、雪山からスタジオワークまであらゆる状況下で日々撮影を行っている。キャリア20年のなかで得た深い経験をもとに、「ビギナー向けにおすすめのCanonのミラーレス一眼カメラ」の話を聞いた。
–まずは依田さんのお話からうかがいたいと思います。最初に購入されたカメラは何でしたか
20年前ですからデジタルではなく、銀塩カメラ(35mmフィルムカメラ)時代であり、私のカメラの師匠が持っていたのが、Canonでしたので、Canon F-1(1971年発売)という完全マニュアル操作が1台目でした。元々カメラが趣味というわけではなかったですし、写真の学校にも行っていませんので、いきなり商業カメラマンからキャリアを開始。カメラに対する豊富な知識もありませんでしたし、師匠の真似するという選択肢しかなかったのです。
–Canon歴が長いとのことですが、今や多くのプロから支持されるSONYには興味はないですか
10年くらい前から注目されていますよね。SONYのセンサー精度の高さは理解していますけど、商業カメラマンの立場としていうなら、すべての機材をSONYに入れ替えるというのは、現状コストもリスクも高いと考えています。プロに必要なレンズは望遠、中望遠、標準、広角、マクロがあり、ボディでも最低2台、さらにストロボも買わないといけないとなると何年で投資回収できるのかと計算してしまいます。あと色の出方があまり好みではないんです。特に黒色の色味。ただし、カールツァイス(1846年設立。ドイツの光学機器&光電子工学メーカー)のレンズは気になりますし、その点は少し惹かれています。
一眼レフのカメラなら、EOS 1D X Mark IIがズバ抜けた安心感がある
–仕事の現場で、多くのプロカメラマンはどういったメーカーを使っているのでしょうか
一時期はSONYが多かったですが、今はCanonに戻ってきている印象です。3大メーカーだと、Nikonが一番少ない気がします。
–所有してきたカメラ遍歴を教えてください
最初は、Canon F-1からEOS-1V(2000年発売)、中判カメラのハッセルブラッド(1841年設立。スウェーデンのメーカー。現在はドローンで有名な中国企業・DJI傘下)、大判カメラのSinar P2(1948年設立。スイスのカメラメーカー)の3台を使っていました。その後、デジタルに移行し、Canon EOS 5D(2005年発売)とEOS 1D(2001年発売)を使い出し、その時期くらいからスポーツの現場でも完全にデジタルに切り替わりました。
–2007年くらいでしょうか
EOS-1Ds Mark IIIが発売されたのが、2007年ですので、それくらいだと思います。1Dsはかなり長く使いましたが、その後、フラッグシップモデルとなるEOS-1D X(2012年発売)がリリースされ、デジタルカメラも「ようやく完成した」という印象だったのを覚えています。それくらいEOS-1D Xは素晴らしいクオリティでしたし、その後、Mark II(2016年発売)も購入しました。
–ここまでは一眼レフですよね。となると、その後はミラーレスでしょうか
そうです。ミラーレスの1台目は、EOS R6(2020年発売)で、2台目がEOS R3(2021年発売。現在のフラッグシップモデル)。ミラーレスに切り替えた理由は、やはりその軽さです。一眼レフに比べて圧倒的に軽く、機動性が高い。しかし、プロとしての性能と安定性でいえば、現在でも1D X Mark IIの方が優れているという印象があります。1D X Mark IIの特筆すべき頑丈さや雨が降ったときなどのタフなコンディションでの安心感はズバ抜けています。ミラーレスが機械として精密であるからこそ、まだ多少の怖さがあります。
最初に購入したミラーレスのEOS R6は不安があり、安心して撮影できなかった
–怖さとは具体的にどういったことでしょうか
故障です。例えば、通常の取材であれば、雨が降れば傘をさしたり、最悪大雨の場合、雨宿りして避難することができます。しかし、陸上競技やスキーなどのスポーツの現場では、それが不可能。どんな過酷な環境にも適応しなければならず、豪雨の中でもこちらも走って選手を追いかけます。肩にぶら下げている複数台のカメラ同士がガンガンぶつかり、雨がカメラ内部に入ってくることも当然あるわけです。R3になって、そうした心配はだいぶ軽減しましたが、R6のときは怖かったですね。
近年、カメラがPCのように構造が複雑化し、撮影機能も上がったことはうれしいのですが、ミラーレスは一眼レフ以上に水濡れに対しては気をつけなければならないですし、頑丈さにも疑問符がつきます。そういう観点では、EOS 1D X Mark IIは偉大なカメラだと思います。ただ、ミラーレスにも利点はありますし、前述した通り、軽さは抜群で、フォーカス面でも格段に進歩していますね。
–ミラーレスの1台目をR6にした理由は
Canonさんからテストで使わせていただき、好感触だったからです。ただ、最初はなかなか慣れませんでした。技術の進歩はすごいと思いましたが、ファインダーに少しタイムラグがありました。ファインダーをのぞき、シャッターを切るという動作の中で、脳内に描いた絵と実際の出来上がりが違ってしまっていた。どうしても少し遅れてしまうのです。
アルペンスキーなどの撮影では、1000分の1秒レベルの品質が求められるのですが、連写とはいえ、シャッターが遅れてしまったら自分が望む写真は撮れません。R6のときは若干そういう感覚がありました。一方、一眼レフの1D X Mark IIではそういうことは起こりませんでしたし、遅れを感じることはありませんでした。つまり初期のミラーレスは人間の目に追いついていなかったのです。
パラリンピックでも使用。EOS R3の登場で安心して撮影ができるようになった
–仕事用では厳しかったのですね
ただ、そうした危惧を解消してくれたのが、R3でした。東京パラリンピックではなんとかR6で対応しましたが、北京パラリンピックの雪の中にR6を持っていくのは不安になり、なんとかR3を購入し、本番に臨んだという経緯があります。
–現在はどういう使い分けをしていますか
R3がメイン機で、R6がサブ機。R3は縦グリップ(ボディを縦構図にした際に持ちやすいグリップ)があり、多少重さがあります。R6はグリップがないので軽いのがポイント。機動性はやはり魅力的です。ちなみにR5は画素数が大きすぎて、そこまでのスペックは不要だったので、R6にしました。ただ、R6がサブ機と言いましたが、十分に高いクオリティの写真が撮れますし、現在も通常のインタビュー撮影ではR6も使用しています。スポーツの現場での弱点を補うため、R3を購入したという流れですね。
–現在のCanonのミラーレスについてはどう思いますか
トレンドなのかもしれないのですが、比較的新しい機種は動画機能に注力しているので、写真機に求めるニーズと若干の乖離があると感じています。R5、R6は熱問題もありますし、すでに他社で動画に特化している製品もあります。個人的には、Canon製品は写真機だと思っているので、そちらの性能を追求してほしいですね。
–R3は1D X Mark II並みに完成したという感覚でしょうか
それが実際そうでもなくて、Wi-Fi機能が若干弱い気がします。1D X Mark IIはWi-Fi機能が内蔵されておらず、別途機器を取り付けていたのですが、そちらの方がデータ転送は安定していました。
一般ユーザーは絶対にミラーレスが◎。電子シャッターのメリットも大きい
–重さという観点についてはどうでしょうか
その点では満足していますが、バランスの問題もあります。R6のようにグリップがないカメラに600mmなどの超望遠レンズを使うと取り回しが効きにくくなります。長めのレンズを使うときは、グリップがあるR3の方が撮影しやすい。バランスに尽きるわけです。
–軽いだけが正義というわけではない
プロ目線だとそうなりますが、一般ユーザーなら絶対にミラーレスをおすすめします。なんといってもミラーレスはその名の通り、ボディー内のミラーがない分、撮影データを処理するだけなので、経年劣化が変わってきます。一眼レフはシャッターを切った分だけ消耗していきますが、電子シャッターはデータ処理だけですので、ダメージが圧倒的に小さい。だから失敗なんか恐れずにシャッターを押し続ければいいと思います。
プロとしてもそのメリットは大きいと感じていて、通常ボディは1回の修理で5〜6万円かかるのですが、それが減るならうれしいです。プロの現場で動かなくなったらシャレにならないので、少しでもおかしいと思ったら点検には出しますし、そうしたコストも地味に負担になります。一方、前述した通り、タフコンディションでは壊れやすいんじゃないかという危惧もありますが、大事に使えばミラーレスは最高だと思いますよ。
–ボディに求める性能とは
やはり頑丈さ。安心感は重要です。
–書き込みスピードの遅さなどのストレスはないでしょうか
1D時代は遅かった印象ですが、今はありません。記録媒体側のカードも処理が速くなりましたし。ただし、性能が上がったことで、撮影枚数が圧倒的に増え、仕事としては撮影後の写真の選択が大変になりましたね(笑)。
EOS RPとR10の2機種がおすすめ。値段は10万円強、違いはセンサーサイズ
–では、一般ユーザー向けのおすすめのボディは何でしょうか
少し前だったらEOS RP(2019年発売。実勢価格約10万円)、今ならEOS R10(2022年発売。実勢価格約11万円)。R7とR10が同時にリリースが発表され、ともに比較的安価だと思います。
RPは中古で約10万円強にもかかわらず、センサーはフルサイズ。R10は新品で12万円強で、センサーはAPS-Cサイズ。できればフルサイズを使ってほしいですし、その方が長期的に見てもカメラを楽しめるのではないかと思います。
–Rシリーズはほかにもありますが
RPとR10はともにスペックは十分。それでいて価格が10万円強ですので、非常にコストパフォーマンスが優れていると思います。趣味としての1台には最適であると考えますし、いろいろなシチュエーションに対応するので、長く使える1台になるはずです。
–古い製品と新しい製品の違いとは
レスポンスではないでしょうか。新しいほどレスがいいですし、電源を入れたときの立ち上がりが違います。撮影したいときに即対応できないのはイラッとしますよね。それだったらスマホでいいじゃんって思ってしまいますので。あとはオートフォーカス機能も年々向上していますので、撮影もだいぶラクになっているはずです。
–なるほど、どちらも惹かれますね。今日は貴重なお話、ありがとうございました。次回のCanon必携レンズの話も楽しみです。また、EOS RPとR10の主なスペック比較は下記に明記しています。Canonの公式サイトでも非常にわかりやすい比較ができるので、チェックしていただければと思います。次回もお楽しみに!
EOS RP | EOS R10 | |
---|---|---|
色 | ブラック/ゴールド | ブラック |
大きさ | 約132.5(幅)×85.0(高さ)×70.0(奥行)mm (CIPA準拠) |
約122.5(幅)×87.8(高さ)×83.4(奥行)mm |
重さ | 約440g(本体のみ) 約485g(バッテリー、メモリーカードを含む) |
約382g(本体のみ) 約429g(バッテリー、メモリーカードを含む) |
撮像素子 | 高感度・高解像度大型単板CMOSセンサー | 高感度・高解像度大型単板CMOSセンサー |
有効画素数 | 約2620万画素 | 約2420万画素 |
有効センサーサイズ | 約35.9×24.0mm (35mmフルサイズ) |
約22.3×14.9mm (APS-Cサイズ) |
有効撮影画角 | 約1.0倍 | 約1.6倍 |
記録媒体 | SD/SDHC/SDXCメモリーカード、 UHS-II、UHS-Iカード対応 |
SD/SDHC/SDXCメモリーカード、 UHS-II、UHS-Iカード対応 |
スロット数 | 1 | 1 |
画像ファイル形式 | JPEG、RAW | JPEG、HEIF(10bit)、 RAW |
フォーカス方式 | デュアルピクセルCMOS AF方式 | デュアルピクセルCMOS AF II、動画サーボAF |
露出制御 | 自動露出/マニュアル露出 | シーンインテリジェントオート/プログラムAE/ マニュアル露出/カスタム撮影モード(C1/C2) |
録音 | ステレオマイク内蔵、 外部ステレオマイク端子装備 |
ステレオマイク・ノイズ低減用マイク内蔵、 外部ステレオマイク端子装備 |
シャッター速度 | 1/4000~30秒、 バルブ(すべての撮影モードを合わせて) |
[静止画撮影] |
内蔵ストロボ | – | ●リトラクタブル式 |
液晶モニター大きさ/方式 | 3.0型(3:2)/ TFT式カラー液晶モニター |
3.0型(3:2)/ TFT式カラー液晶モニター |